花様年華
ウォン・カーウァイのフィルム巻人生

USA Films封切、ブロック2ピクチャーズ提供
パラディ・フィルム提供参加作品
(国際販売:Fortissimo Film Sales、アムステルダム)
製作 ウォン・カーウァイ
製作総指揮 チャン・イーチェン

監督・脚本 ウォン・カーウァイ
撮影 クリストファー・ドイル、リー・ピンビン
編集・衣裳 ウィリアム・チャン
音楽 マイケル・ガラッソ、梅林茂
美術 ウィリアム・チャン、マン・リンチャン、アルフレッド・ヤウ
音声 クオ・リーチー
共同プロデューサー ジャッキー・パン
2000年5月20日 カンヌ映画祭上映作品(コンペティション部門)
上映時間:98分

ミスター・チャウ.....トニー・レオン
ミセス・チャン.....マギー・チャン
ミスター・ホー.....ライ・チン
ミセス・スーエン.....レベッカ・パン
アーピン.....スー・ピンラン
(広東語、上海語)

Byデヴィッド・ルーニー
流れるように編集されたシーンを通じて、ウォンは幻想的なムードとリズムを確立した。

香港出身のウォン・カーウァイ監督の最新作は、洗練された愛と後悔についてのメロドラマである。いつものように内容よりスタイルを重視した、魅力的なムードを持った作品である。『花様年華』はロマンティックでうっとりする雰囲気と、60年代を鮮明に映し出した心奪われる映像で目を眩ませるが、引きずる感情の余韻を与える劇的な複雑さは見せつけていない。USAフィルムの印象的な3分間の予告編が流れるアメリカでは、観客がもっとストーリーの構成力を求めるだろうし、ヨーロッパのアート系映画ファンたちは、より一層惹きつけられることだろう。

カンヌ映画祭のコンペティション部門の締め切りに間に合うよう、急いで完成されたこの映画は、仮モノサウンド・ミックスで上映されたが、劇場公開ではドルビー処理される予定である。報道によれば、ウォンは映画祭の一週間前まで、カンボジアでラストシーンを撮影していたと言われている。撮影はこの美学的映像作家のどの作品にも劣らず凝っているものの、― 実際カンヌで高等技術院賞を受賞している ― 物語の結末は短絡的で、脚本家兼監督は上辺だけの、さらりとしたエンディングにしている。

ウォンの脚本は撮影中に書き直されたりしたせいか、この悲痛な愛の物語は、輪郭をわずかに彩っているだけだ。

1962年香港の上海人地区で、ひとつの時代が終わりを告げた頃、ビルの限られたスペースと狭い廊下を舞台に、二組の若い夫婦が部屋を借りて隣人となるところからドラマは始まる。

足長の美人チャン(マギー・チャン)は貿易会社で秘書として働き、日本の商社に勤める夫はしばしば出張で不在になる。廊下の反対側に住むチャウ(トニー・レオン)は新聞社の編集者で、同じように度々家を空ける妻がいる。訪問者たちで溢れ、愛想は良いがプライバシーを侵害してくる女家主、ミセス・スーエン(レベッカ・パン)に管理されているために、賑やかな住宅で多くの時間を一人で過ごしているチャンとチャウは、内気だが誠実な付き合いを始める。互いの伴侶は全像を見せることがなく、背後からちらりと見えたり、障害物によって一部しか見えない。

チャウがある晩、妻の仕事場まで行き彼女を驚かそうとすると、既に早々と帰宅してしまっていることを知らされ、妻を疑うようになる。その直後、新聞社の同僚(スー・ピンラン)はチャウの妻が他の男と一緒のところを見たと言う。

チョウは同じハンドバッグを持っているチャンに、そのバッグについて慎重に尋ねてみる。それは夫からのプレゼントであると教えるチャンだが、それに続けて、チャウのネクタイは夫がつけているものと同じであることを明かす。チャウは妻からネクタイを受取っていたのだ。二人は、互いの伴侶が親密な交際をしていると簡単に想像がついた。

屈辱と自暴自棄から、さらに引き寄せられて行くチャンとチョウは、互いの相手には何も言わないず、変化の兆しを待つ。一方で二人は伴侶に礼儀正しく振舞うよう心に誓いながら、不倫のきっかけを再現しようとする。 チャンはチャウを夫の代役として尋問するリハーサルを行うが、彼の「罪悪感を感じている」という台詞で、深く傷つく。遠慮がちな二人だが、やがて互いに恋愛感情がからみついてきて、ついにはチャウがチャンに一緒にシンガポールへ行こうと誘う。

ウォンは幻想的なムードとリズムを確立し、報われない恋人たちや、職場やアパートの廊下で立ち止まってお喋りする場面、どしゃ降りの中チャンが寂しい夕食を買いにそば屋から出てくるシーンなどを、流れるように編集している。

繰り返し使用されるスローモーションとマイケル・ガラッソの素晴らしい弦楽曲、そしてスペイン語で歌うナット・キング・コールの声などがこの映画を官能的で豊かにしているが、それによってドラマとしての進展が希薄になりがちだ。

機会を逃した気持ちや、薄れない愛情は、数年後チャンがミセス・スーエンの家に戻り、チャウがカンボジアの寺院で過去の記憶を呼び起こす際、静かに、しかし確実に伝わってくる。しかしこの作品は、強い渇望、あるいは古典的メロドラマの持つ切ない感情を表立って出してはいない。

東洋のゴダールと評判になった『恋する惑星』『ブエノスアイレス』等でみせた、ウォンの鋭く実験的な映像や素早い編集を放棄し、ダグラス・サークの作品を彷彿とさせるこの作品は、その熱い想いがはっきり分かる。

常連の撮影監督、クリストファー・ドイルと、ホウ・シャオシェンの協力者リー・ピンビンによって、ウォンはマギー・チャンとトニー・レオンを出演させた『欲望の翼』に最も近い古典的な撮影スタイルを再びとっている。

カメラは部屋の外側、廊下や窓越し、また鏡の中に、すれ違う恋人たちを映し出す。

『花様年華』は細部にわたり芸術的演出をされ、その映像的装飾は、ほとんど反教義的のようにも思える。しかし、この映画の楽しみのひとつに、ウィリアム・チャン(編集も担当)による当時を再現したインテリアやレトロ調の色使い、圧倒される衣装など、美術の細部に至るまでのこだわりがある。チャンはラスベガスのショーよりも頻繁に衣装変えをし、数分ごとに違うしなやかな花柄の服で登場するので、どこかでクローゼットいっぱいの衣装を髪を振り乱しながら働いているお針子を想像してしまう。

マギー・チャンと、カンヌで最優秀主演男優賞を受賞したトニー・レオンは、具体性を持たない役柄を与えられながらも、クールで抑制された演技で、抑圧されながらも、始めは苦しく、やがて憧れと悲しみへと続く感情を表している。

ヴァラエティ誌、2000年6月4日掲載より

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